流行に敏感な人というのは、ほんと、感心してしまう。だって、今何が流行っているのか、次は何が流行るのかという情報源に対し、アンテナを張り、常に敏感に意識しているということだもんね。性格的に、そんなマメなことは、ようできないため、いつだって流行には取り残された自分がいる。

まあ、どこか斜に構えた生き方をしている自分みたいな人間にとっては、「流行なんか取り入れるなんて、生き様に反してるわ」と強がってしまえば済むわけで、これまでもずっとそうやって生きてきたもんで、だから、殊更、流行を意識して生きようなんざ思っちゃいないが、時に、流行モノを欲してしまう瞬間というものがあるから、困り者。

そう、今、それが、電子タバコ。

近頃、巷で大ブームを巻き起こしているアレ。火を使うことなく、たばこを加熱して味わうというアレ。今まさに、自分の中で、遅ればせながらの大ブームが到来しているのである。

例の電子タバコを人々が持ち始めた頃は、「こんなまがいもんに手を出してまで吸うくらいやったら、タバコなんて、やめてしもたらええねん……」と悪態をついていた。だって、「僕、意識高い系の男子ですねん」というようなオーラが胡散臭く、よくもまあ、堂々と街なかでこんなもん吸えるなあと、多少、見下した感でその景色を眺めていた。
ほら、あれ、携帯電話本体を耳にも付けず口元にも寄せず、イヤホンとマイクを使っておしゃべりしている連中がいるじゃあないの。あれと一緒。あれも、周りからすると、アホの極みやと思われてるよね。白昼堂々、ひとり言を愉快痛快大声でしゃべり倒しているおかしな奴だと、一瞬思うよね。そう思われてるのを知ってか知らずか、堂々と例のアレを活用している連中というのは、もはや、世捨て人やで。最先端や思うてるんやろか? 意識高い系や思うてるんやろか? 頭のおかしい人間やと周りが思っていること、知ってはるんやろか?

まあ、早い話が、あれと一緒で、電子タバコもイキった連中が持つイキりアイテムだと感じていたわけさ。それがどうしたことか、職場の後輩の中でも、最も意識が低い系のメンズが、例のアレ、電子タバコを買っちゃったじゃあないの。
しかも、「先輩も一緒に買います? 最近、人気で、在庫ほとんどないらしいですよ?」なんて、声までご丁寧にかけてくれちゃって。

「そんなもん、要らんわい!」

と一喝。俺様を誰様やと思うとるんじゃい。あえて流行の逆に歩を進めるような無頼者やぞ。そんなもん、ワシに薦めてくれるな若造よ。

そうやって意地を張っていたのもつかの間。後輩に何度か試し吸いさせてもらっているうちに、「これ、ええやん……」。灰が出ないから、散らかすこともない、「これ、ええやん……」。煙のニオイもない、「これ、ええやん……」。普通のタバコと比べて、タールがほとんど含まれていない、「これ、ええやん……」。

そして、「これ、欲しひ……」、となったわけである。

が、しかし、その後、家電やサブカルに強い影響力を持つ某トークバラエティ番組で、例のアレの特集が組まれたり、インターネット大手検索エンジンのニューストピックスにデカデカと記事が掲出されたりで、世間の注目が一気に集まり、瞬く間に巷から、例のアレが姿を消した。

なんじゃい! こっちが欲しいと思ってやった途端、手のひら返すんかい! せっかく買ってあげよ思うてんのに、そっちから逃げて行くんかい!

そう吠えてみたものの、一度火がついた衝動(電子タバコは火がつかないタイプの煙草ですが)は抑え切れず、寄るタバコ屋、寄るコンビニ、どこへ行こうが、「例のアレ、置いてる?」と、キザに確認してまわり、「ないっすね!」「余裕で、ないっすね!」「あるわけないっすね!」と、どこの店でも軽くあしらわれ、そうなると人間、ますますそれを欲する熱情が増し増して、ぐぬぬ、アホウと思い、先の後輩に、「お前、それ、どないやって買ったんじゃい!」と、鼻から焦りの煙をモウモウと吹き出しながら詰問。すると後輩、「僕が買ったころは、まだタバコ屋に、普通に入荷してましたもん。だから先輩に声かけたんじゃないっすか、あの時! 僕が買った日も、まだ三台くらい在庫あったのに!」と、流行に対してのスロースターターを追い詰める態度を取られる始末。

こんなんでメゲてられるかい。そう思った僕は、懇意にしているタバコ屋のご主人に、「例のアレ、次、いつ入荷しますのん?」と尋ねてみた。
すると、「今、ブームやからねぇ。次の入荷は分からんわ。まぁでも、一過性のもんやから、そろそろ落ち着くんやない? 半年くらいのスパンで見たら、涼しい顔して手にできるよ」と。

「半年……」

もう、流行とかどうでもいいんですわ。灰が出ないとか、タールが少ないとか、もうそんなんどうでもいいんですわ。欲したものが手に入らない、どこに行っても手に入らない、そのジレンマを解消したいだけなんですわ。
夢は叶う、とか、偉人さん、よう言いはりますよね。でも、僕の夢は叶わないんですわ。少なくとも、今、僕の手では、叶えることができないわけです。そんな気分で、いつものタバコを吸っていると、灰はボロボロ落ちるわ、ヤニのニオイは強烈やわで、なんか、とっても惨めな気分に。

流行って、それに乗るのがダサイと感じていた頃もあった。それなのに今、流行に乗ろうとして一歩を踏み出したくせに、流行に混ぜてもらえなかった自分がいる。素直に流行に身を任せている人のほうが、なんぼか美しい。なんぼかスマートだ。

こんなことを言うのは失礼かも知れないが、甲子園を目指して、夜な夜な家の前で素振りの練習をする高校生がいる。さぞ、甲子園に行きたいのだろう。もしかしたら、甲子園に行くのは夢の途中で、その後、プロになって活躍し、メジャーに行って大記録を打ち立てたいと、毎日毎日、スイングを続けているのかも知れない。その憧れたるや、相当のものだろう。
しかしだね、僕が電子タバコを手にしたいという憧れも、決して君に負けてやしない。僕だって、君がバットを振る回数くらい、タバコ屋やコンビニを巡っている。僕のバットにボールが当たることはない。いつだって空振りだ。そのストレスで、普段吸っている、マールボロメンソールライトの摂取量は、平常時の三倍近くなってきた。高校生よ、いつか僕がホームランを打つその一球、ピッチャーの球種はロー、つまりは、低めの球だろう。だって、電子タバコに、灰、はないんだもん。くだらん。僕が手にする栄光に、タールは少ないが、エールはきっと多い。くだらん。

さあ、次はどこを攻めようか。きっと、戦国時代の武将たちも、こんな風にして、次の戦に胸を躍らせていたに違いない。もはや、侍だ。早う、刀が欲しい。火を使わず、加熱するタイプの刀が欲しい。ぐぬぬ。

次のタバコ屋には、例のアレ、なんだか置いてそうだぞ。第六感がそう叫んでいる!
心の中で、「ヨシッ!」と気合を入れながら、通りの向こう、タバコ屋に攻め入るべく、横断歩道へと一歩を踏み出した。

デタラメだもの。

20160703