あぁ、それにしても眠たいわあ。どうしてこうも仕事の朝は起きられへんのじゃあ。あぁ、眠たいわあ。

そんな眠い眠いなどと言ってる場合じゃなく、この通勤電車の時間の間にも、本日のお仕事のことを考えないと、スケジュールが遅延してしまう。
Aさんには見積もり送って、Bさんにはデザインカンプを出して、Cさんからの修正指示を聞いたあと、Dさんのところに打ち合わせ訪問行かないと。

などと考えていると、もとより、終わりもせず間に合いもしないスケジュールの中で生きておるのだ、もとより、上手くいかないスケジュールの中で生きておるのだ、それを間に合わそうとか、上手くやろうなどと、叶いもしない願いを腹に据えて、あれこれ考えようとするから、結局、破綻したときに、泡を吹くのである。

そうだそうだ、上手くいかないもんは、どう考えても上手くいかない。考えるだけ、無駄。なるようにしかならないし、なったときに、足早に考えればいい。なってもいないこの状況、電話もマウスもペンも持っていない、吊革しか持っていないこの状況で、まだ起こってもいないことを、あれこれ考えても仕方がないわ。

やめじゃやめじゃ。パッと次の駅で下車して、朝っぱらから立ち飲み屋にでもしけこもうぜ。

というわけにもいかないので、仕方なく、中吊り広告なんかをぼんやり見上げながら、日本の出生率を向上させる案を、論文にまで昇華させてやろうと思いつく。

子どもの人数が減り、老人の人数が増えていく、我が日本。
保障の問題やら、税金の問題やらで、国家を支えている既存のシステムが、どんどんと立ち行かなくなっていくそうな。

そこでだ。この電車の中で今、広告を見ている、過払い請求というゴシックフォントの文字を眺めているこの瞬間に、パッと思いついた自分の案で、憂い多き日本の出生率低下の問題を解決できる。自信がある。
普段のお仕事だと、妙案など、たったのひとつも出てきやしないくせに、こういうタイミングでの発想力と瞬発力といったら、まるで動物的。自分でも驚くほどの、脅威のイマジネーション力を備えている。

で、どうすんの、それ?

と鼻息荒げ、胸倉掴んで問い詰められるのは必至なので、僕の妙案、奇跡の案を披露したいと思う。

『赤色と黄色と青色の色札を、日本国民全員が、首からぶら下げれば、全てが解決する』

ほら、驚愕のアイデアでしょうよ。目をひん剥いてしもたでしょうよ。あまりの奇想天外さに、腰抜かしてしもたでしょうよ。

勘の悪いあなたには、特別に我輩の論文の内容を説明いたしましょう。

要するに、男女の出会いの数を飛躍的に伸ばせば、恋愛する人たちの数やら、結婚する人たちの数、出産する人の数も、比例して増えていくよね。

で、出会いという名のチャンスを阻害している要因を、前述の色札で解決するわけさ。
つまりは、既に恋人がいる人、既に結婚している人、今は恋愛をしたくないという人は、首から赤色の色札をぶら下げておけば、異性はその人を恋愛対象から外すよね。

そして、待ってました。青色の色札をぶら下げている人は、恋人欲しい、恋人欲しい、恋愛したい、そう思っている人ということに、相成ります。

ほれ、出会いがない出会いがないと嘆いている人は、仕組まれた出会いが舞い込んできていないだけで、皆まで言ってしまえば、街行く人、電車の中の人、バスの中の人、飲み屋の隣の席のお客さま、それら全員が、本来なら、出会いであって然るべきなのである。

しかし、一歩を踏み出せないのは、

「今、恋人いらっしゃいますか?」
「今、恋愛したいと思っていらっしゃいますか?」
「好きな人は、いますか?」

などと、見ず知らずの人に聞くことなんて、到底無理だし、それに近い行為を、人はナンパなどと呼んでいるらしいし、シャイでピュアな日本人には、土台不可能な話だ。

それを一気に解消してくれるのが、前述の色札なわけ。

ちょっといいなぁと思う異性がいて、青の色札をぶら下げてたら、ちょいとお近づきになってやろう!よ思うでしょうよ。それが出会いでしょうよ。青信号は、どんどん進行しちゃっていいんでしょうよ。
じゃあ、街中にいるベッピンさんや、嫌味なくらいにイケメンな男性などが、青色の札をつけているのを見るや否や、声をかけてみればいいわけ。

この案のすごいところ、それは、普通に考えると、これって、断られるのが怖くて、声なんてかけられないって臆してしまうところが、ナンパと変わらないなんて思われがちなんだけれども、想像してごらんなさい、声をかけた人に断られたとしても、街を歩いていれば、青札を下げた人なんざ、ここあそこどこにでも、見渡す限りいるわけで、そうなってくると、一回断られたくらいで臆する必要もなく、この大海原には、大量の魚たちが心地良さそうに泳いでいる、さぁ君も私も、まだ見ぬ海に出て行こうじゃないか、となるわけ。

だから、赤色と青色さえ、しかと目に入っていれば、人は臆する必要もなく、恋愛街道を闊歩できる。

え?じゃあ、黄色は、何のためって?

尋常じゃないほどに勘の悪いあなたに、お教えいたしましょう。
黄色の色札は、恋人はいませんが、好きな人はいますってやつ。きゃっきゃっきゃっ。
お声がけいただくのは構いませんが、一時停止が必要ですってやつ。うまくね?うまくね?きゃっきゃっ。

この三色の色札制度を導入するだけで、我が日本人、言いたいことも言えないこんな世の中と、言いたいことも言えないこんなシャイな性分を備えた我が日本人が、青色の色札めがけて、気持ちを告げ、恋を求め、愛を叫び合うようになるわけですよ。
そして、その愛の雄たけびの果てには、愛の育みがあって、そして、子どもが産まれ、出生率が向上する。

日本という名のシステムは、再びその機能を取り戻し、若い世代やこれからの子どもたちにも、幸の多い国へと魅力的な変化を遂げていくわけである。

わずか数秒間の間に、これほどまでのプレゼンテーションを思いつき自分の才能と能力に、改めて感服する。
この論文を発表すれば、生涯お金の巡りがよくなり、仕事なんぞ、やらなくて済む身分になれるんじゃなかろうか、にひにひ。

ぎゃ。電車、乗り過ごしてる。降りねばならぬ駅から、三駅も超過してる。
黄色の色札の説明に、時間を要し過ぎたか。

例に漏れず、本日も遅刻のようだ。

デタラメだもの。

201140622