他人のペースに巻き込まれるというのは、何とも面倒臭いものである。
できれば、人様のペースなど全くもって気にすることなく、山篭りしている仙人のように、自分と向き合いながら、「ライバルは自分です」などと、ストイックな格闘家みたいな名言、格言でも吐きながら、ぜひとも生きてみたいものだ。

何が腹の立つっていうと、あの、仕事の最中によくある、「今、ちょっと、お時間よろしいですか?あっ、1分程度で構いませんので」的な、手の止められ方。
あれは、ある種の、恐喝だぜ。

何とも人の弱みにつけ込んだ恐喝まがいの行為に思えて、仕方がないわ。
「今、ちょっと、お時間よろしいですか?」と聞かれて、「あっ、悪い、今、ちょっと時間ねぇわ」とか「今、ちょっと、手ぇ離せねぇわ」などと断りでもしようもんなら、「お前、どんだけ売れっ子やと自分で思っとるんじゃ、このカス!そない忙しい仕事も、重要な仕事もロクにしてないクセに、偉そうに、何が時間ねぇわじゃ、このクソが!」と、心の中で思われてしまうことは、間違いない。

そんなおどろおどろしい想像が先走るもんだから、平和しか知らない、争いを知らない、鳩のような心持ちをした私は、「あっ、いいですよ!」と、洗顔フォームのCMに出てくる美男子のような笑顔でもって、快諾をしてしまうわけさ。

でも、あるでしょうが、人には、今ちょっとこれやっちゃいたいなぁって感じの雑務というか雑多な所用が。
そういう時は、やっちゃいたいでしょうが、自分のペースで。ましてや、集中力を伴うような作業の場合は、なおさら、今この瞬間こそは、神経を研ぎ澄まし、この一手に注ぎきってやる、俺様の集中力!などとやってのけているわけで、そこへ先のように、「今、ちょっと、お時間よろしいですか?」などほざかれた際には、「てめぇは、見てわからんのか、この妖気然とした、我輩の集中しているスタイルを!」と、つき返したくもなるが、やはり、洗顔フォームをやってしまう。

さらには、「1分程度で構いませんので」的に、僅かの時間で構わない旨まで添えられてしまっては、たまったもんじゃない。
断りでもすれば、「1分の時間さえも他人に割かないエゴイスト野郎」とか「どケチ」「お猪口のような器」などと、非難を轟々と浴びること、容易に想像がつく。

もし万が一、それを断った瞬間からの、俺様の1分間の様子を監視でもされていて、その1分間を、さして重要ではない所作に費やしていたことを察知でもされようもんならば、「そんなしょうもない1分をやり過ごすくらいやったら、こっちの用件、聞けたんちゃうんか、このボケ野郎!」と詰められるのは、必至。

ほら、「今、ちょっと、お時間よろしいですか?」は、立派な恐喝に値するわけさ。

それを考えると、昨今の、何やら、メッセージのやり取りをしたりする道具というものは、相手がそのメッセージを閲覧すると、手元の画面上に、既読とか何とか表示されるようで、送った相手にそれが読まれたか読まれてないかが、一目なのだそう。
これまた、恐喝の臭いがする。

となると、何?私のそういったものも、相手のメッセージを読んだ瞬間、既読とか何とか、向こう様に表示されたりしてるわけ?何それ、何その強制的な感じ、何その妙な機能。

そのような既読システムの導入によって、人々は、メッセージのやり取り、つまりは、電子的な交信手段に、疲弊し始めているのだそうな。

「ウチのメッセージ、読んでるのに、何で返事くれへんのよ!」
「俺の送った大切なメッセージ、いつまでも見ないって、どういうことだ?」
「やべぇ、見たくないメッセージだったのに、既読にしちまった…。返信返さなきゃ…」

疑心暗鬼。

そうやって、人々は、電子的な文書に踊らされて、疲弊しているのだそうで。
ただ、聞くところによると、ぎょうさんお友だちなどがいらっしゃる方などは、メッセージをやってるお友だちが一覧で表示されている画面などがあるそうで、その画面だったらば、最新のメッセージは普通に受信され、受信数が1だの2だのと表示されつつ、しかもメッセージの冒頭数行が読めるにも関わらず、まだそのお友だちとの会話画面を開いていないという理由から、既読表示が相手に表示されないという、魔法のような裏技があるらしい。

「そうすれば、既読にならずにどんな内容のメッセージか確認できるんで、返せそうな内容っぽかったら開いちゃって、ややこしそうだったら、時間ある時に開いて返せますからねぇ~!」

って、やめちまえ、そんな面倒臭い付き合い!
そこまでメッセージの開封やら既読やらで、策略を練ってまで付き合うようなつながりなら、捨ててしまえ!
そう叫んでしまいたくもなる。

人との交流というやつは、多少の恐喝が含まれているということだろう。
先手を取ったものがアドバンテージを握り、後手にまわってしまった人間は、洗顔フォームをやってのけるしかないわけだ。

さて、そうなってくると、私のような人間は、面倒臭いことから逃げ出したくなる性分なので、既読に脅かされるくらいなら、孤独を選んだほうが、なにぶん、肩の力も抜けて、健やかに生きて行けそうな気さえもする。

デタラメだもの。

201140505