なんやかんや仕事が立て込んでくると、やれ何日にデザインを上げないととか、何日に例の返事を返して、何日の何時までに見積書を送って、などといったように、とにかく期日に追われる。

自分の仕事の期日がてんこ盛りになるだけならまだしも、依頼している誰かの作業やら返事やらを、何日の何時までにもらわねばといったような、他人様のお仕事の期日までをも管理していると、さらに頭がぐっちゃぐちゃになってくる。

ただでさえ、頭の性能が優れていない僕のような人間にとっては、そういった状況がミルフィーユのように重なってくると、生きた心地がしないよ、全く。胃に穴が開きそうだよ、全く。

と、愚痴を垂れていても始まらないので、どのお仕事も懇切丁寧に、「社内の人社外の人、皆々様のお仕事のご協力をさせていただいて大変光栄でございます。私みたいな人間を、どうぞ皆々様、馬車馬のようにお使いくださいませ。既にボロ雑巾のようになっておりますので、多少汚れたお手でも結構でございます、何なりと汚れた部位などを、ギシギシとぶっきら棒に拭くなり擦るなり、お好きに使ってくださいませ」といった精神を胸に、従事する。

そうやって頑張ってはみるものの、人間にはやはり、弱点というものがあるようで、それが僕にとっては、他人様とのアポイントメントの時間を覚えられない、もしくは、勘違いしてしまうという、そういった弱点というよりも、明らかに欠点と呼ぶべきものがあることに、この激務の最中、ようやく気づいた次第で。

「へへへ、部下よ。今日の俺様のアポイントメントは、4時からなんだぜ」
などと、昼食後に地下の喫茶店で、アイスコーヒーを召し上がっていると、急に当のお客様からの電話が。

「今日の2時のアポイントメントの件ですが、まだお見えになられていないようで…」
時計を見ると、2時5分だった。
「え?今日のアポイントメントは、4時からちゃいましたっけ…?」
「いえ、2時ですよ、14時からとお伝えしましたよね?」
「え?14時?」
(14時って、4が付くから4時やと思ってた)という心の中のつぶやき。
「今から伺いましょうか…?」
「いえ、もう関係者各位集合しておりますので、本日は結構でございます…」

なるほど、14時ってのは、4が付くから4時じゃなくて、2時っていう意味だったのか。
それを勘違いではなく、真剣に間違えていたのである。
14時集合が決定した打ち合わせの現場にて、ハッキリと14時という言葉を耳にしたのも覚えている。
ちゃんとその指示を聞いたにも関わらず、その場で手帳に、14時は4が付くから4時ということで、すなわち16時ね!と、しっかり16時アポイントメントと書き込んでしまっていたのである。
聞き間違いではない。欠点が巻き起こした立派な事件である。
アポイントメントに、穴を開けてしまった。

その欠点が露呈してからというもの、アポイントメントの時間を覚えたり書き込んだりすることに恐怖を覚え、何度も聞き返してしまうようなチキン野郎になり、不審がられること度々。

だって、アポイントメントの時間が確定した瞬間から、え?何時ですよね?すみません、念のためですが、何時ですよね?などと、連呼するような奴、誰だって気色悪がるに決まってるもんね。

で、同じ担当者様と別日にアポイントメントが入っており、次は、某日の16時半集合である。
16時半というのは、変換すると4時半だから、4が付くから14時半で、すなわち2時半だ!と考えるのはこれまでの情報弱者な俺であり、パワーアップした俺様は、16時半というのを変換して4時半というところで変換作業を終え、はじき出された答えである4時半という文字を手帳に書き込めるほどの男に成長した。

「もしもし」
念のため、担当者様に本日のアポイントメントの時間確認を入れる、俺。
「はい?どういたしましたか?」
「今日のアポイントメントは、16時半集合で間違いないですよね?」
予定を事前に確認するタイプの、できるビジネスマン風なトーンで話す、俺。
「……」
無言の担当者様。しばらくして、
「明日の16時半……のことですよね?」
何!?俺、日にちを間違えていたのか?
あまりに焦り、カバンから手帳を取り出すや、カレンダーを見てみると、紛れもなく、アポイントメントの日程は、明日だった。
「あぁ、あぁ、そうですよ、もちろん明日ですよ!明日のお時間を念のためご確認させていただこうと思って!」
変声期の青年ほどに声を裏返らせながら、その場を凌いだ。

時間に気を取られてしまうと、日にちまで理解できなくなるという、オプション付きの弱点だということまで判明した。

アポイントメントの当日は、会ったことも見たこともないようなお偉いさんがひとりお越しいただいており、多少は緊張したものの、幾多のトラブルを経て、その日その場に見事に居合わせることができた俺様の安堵感を拭えるものは誰ひとりおらず、常に余裕の表情でヘラヘラと応対できたわけで。

で、軽く一杯ほど、という流れになり、ほんの一杯だけビールを呼ばれつつ、末端の担当者様とお仕事の会話やら、そのお方、異動なされるとのことで、労いの言葉を述べさせていただいたりと、ヘラヘラとした態度にも拍車がかかり、何より、前回のようにアポイントメントに穴を開けなかったことに対する自分自身への賞賛が脳内を埋め尽くしていたためか、そんな自分の業績に酔いしれていたためか、散々ヘラヘラした挙句に、お暇する際に、会ったことも見たこともないようなお偉いさんにひと言の挨拶もせずに、その場を辞するという、救いようのない無礼な失態をしてしまったことに、辞してから数分後に気づいた。

ただ、その日の俺は一味も二味も違っていた。

今の俺には、お偉いさんだろうがお天道様だろうが関係ない。
なんせ俺は、今日、アポイントメントに穴を開けることなく、ちゃんと来れたのだから。

夕日の眩しさが、まるで僕だけを照らすスポットライトのような気がして、役者を気取りながら、少し目を細めてみた。

デタラメだもの。

201140406