おっさんには、進歩の停滞を自ら肯定してしまえる、そんなような殺し文句が数多存在するのである。

「もうあかんわ!この歳なったら、機械の使い方とかよう分かれへんからなあ!こういうのは、若いモンの特権やで!頼むわ!ちょと、やってんかあー?」

おっさんは、分からないことがあると、もう学ぼうと努力もせずに、それだけならまだしも、若い世代の人間に対して、まるで箔をつけるような見え透いたお世辞を述べ述べしながら、めんどくさいことを押し付けてみたり。

この歳なったらって、おっさんと同じくらいの歳でも、普通にスマートフォンなどを使って、アプリなどを落としてみたり、メールを書いたり送ったり読んだりしてる人、たくさん知っているんやけどもなあ。

これをひも解いてみるに、おそらく世のおっさんたちは、興味関心というものが薄れてきているのじゃあるまいかと、見てとれる。

ここを押したら、これが飛び出して、こっちを捻ったら、ピュッて噴射して、あっちをこねくり回したら、グワッと大胆に変わってとか、そういう童心な興味関心や感動や興奮みたいなものが、なくなってしまって、新しいゴルフクラブのことや、お値段の張る飲食店のことなどで、頭がいっぱいなのだろう。

となると、使い方の分からない機械なんか、チマチマ触ってること、めんどくさくて仕方ないだろうなあ。
そりゃ、そういうのが好き(そうに見える)若い世代の人間に、丸投げするほうが、おっさん界における処世術としては、正しいのだろうなあ。

しかし、素直に頷けないところは、そうやって、進歩の停滞を、オブラートに包んで自ら肯定しているくせに、そのくせにして、過去への後退は強制してきやがるもんで、なんとも閉口してしまう。

「ワシらの若い頃はなあ、もっとモーレツやったんやぞ!お前らみたいなモンも、もっとモーレツならんと!そないチャラチャラ髪の毛とかに気い使こてんと、坊主にせい!坊主に!ほなら、仕事もスカーッと、ようできよるわ!ワシらの頃は、みな坊主やったぞ!ええか、坊主にせいよ、坊主に!」

目の前に広がる景色には歩み出せないけれども、後ろに連なる回顧の景色にだけは、若者をも道連れにしたいみたいだ。

そんな風な強制を受けた刹那、からかい半分に、

「部長も、パソコンの操作とか覚えてみてくださいよー!そしたら仕事の効率も上がりますよ!(僕の余計な仕事も減りますし)」

などと勧めてみても、

「いやいや、そこはワシの分野ちゃうやろ!ワシがそれやってしもたら、若いモンの仕事、なくなってしまうがな」

なくなるか…!逆に増えとるねん!

「ワシらの世代の強みは、そういうチマチマしたところちゃうから、逆に非効率なってまうやろ?」

ほなら、僕も、任されたどうでもいい用事など、そこは僕の強みじゃないからという理由で断ることも可能なのだろうか?断ってみたろうかしらん。

「まあ、ワシらの世代、根性あるよって、やろう思たら、すぐできるねんで!」

じゃあ、やってくれよ。
せめて、自分のことは自分でやってください。
一度覚えたらできるはずなんで、一度覚えてみてください。

そんな風に自らの進歩を止めてしまっておられる大先輩方が、あちらこちらにいらっしゃる。
しかし、そこは大先輩、僕らには到底できないことも、やってのけられるから、大したもんである。

それは、屁。

屁に対する大胆さは、僕らのような未熟者では、足元にも及ばない凄まじさを見せつけてくれる。
さすが、大先輩。

まあよく見かける光景としては、公衆便所などで、おっさんたちと並んで用を足していると、ふいに、ブーッ!という音が隣などで発せられるときがある。

まあトイレですし、男性しかいないですし、そんな羞恥心を抱く場でもないのかも知れないけれども、それにしても、室内には数人の他人がいる中で、プスッくらいならまだしも、ブーッ!であるから、やはりその大胆さ、尊敬してしまう。

歩道などを歩いてるときなどにも、すれ違いざまに、ブーッ!とやらかしてくれる大先輩もいらっしゃる。
夜道などの場合、怪奇現象かしらんと思ってしまうほど、びっくりするが、そこは大先輩。公の場だろうが、しんと静まり返った夜道だろうが、お構いなしの大胆さ。

しかし僕が、最も大先輩の大胆さに感服してしまったのは、本屋での、ブーッ!である。

あの静かな場所の代表格とされる本屋で、しかも、おっさんの立ち読むコーナーには、多くの人、男女、いわゆる、やや混んでる状況である。

にも関わらず、ブーッ!

その光景を目の当たりにしていると、やはりおっさんには、パソコンやスマートフォンなどのチマチマした作業なんかは、もう不必要なんだな、と思ってしまう節もある。

静寂の本屋で、場もはばからずに屁をこいてのけられる大先輩たちに、パソコン覚えてくださいよなんて、若輩者が言うべきではないよね。

改めて、おっさんに敬意を表したいと思いますわ。
坊主にはしませんけど。

『デタラメだもの』

20130824