こんなにも運に見放された日というものが、果たしてあるだろうか?というやつが、先日起こりましてですねえ。

とある休日に急遽、直接関係があるわけではない仕事の用をなぜか命ぜられ、はるばる大阪から東京のお客様のところへと向かうはめに。

打ち合わせが昼過ぎからということもあり、少しばかりは余裕を持って大阪を出られるのはいいものの、本来なら休みの日、だらりだらだらと過ごす予定が急遽覆されてしまい、何ともやりきれない思いを胸に、新大阪。

新幹線に乗り込むと、前日からの腹痛が攻めて参りまして、指定の席に着座する前に、新幹線の便座に座るという慌しくも不恰好に、大阪を出発した。

無事、腹痛も治まり指定の席に座っていると、ああ、そういや自分は元来の閉所恐怖症から、窓際の席というものには、一切座れないという性質を持っておりまして。

その実、窓際なんて席に座って、旅をくつろげる人の気がしれないくらいで、あんなもの、端に追いやられて、自分の自由に自分のペースにトイレやタバコに立つわけにもいかず、急に動き出したい衝動にかられたときにでも、隣席の人間に、すんまへんすんまへん!なんて手を顔前に立てて、ペコペコしなければならず、その追いやられた感がなんとも居心地悪く落ち着かず、息もロクにできない始末で、だから、窓際は勘弁というところなのである。

二つ並びの通路側の席に腰を落ち着け、ペットボトルのお茶なんかをクイッとやっていると、通路を挟んだ、三つ並びの席の窓側の席で、何やらドンパチが始まり、穏やかじゃない。

何かと目をやると、指定席でよくある風景、自分の席に既に誰かが着座していて、そこワシの席やで、いや私もここの席ですけどなどの悶着で、おっさんと中年の細身のおばちゃんがモメ出している。

手持ちの切符を見せ合い、あっけなく、おばちゃんが本来座るべきではない席に座っていたことが判明し、おっさんに席を譲り、席を移動。
が、おばちゃん、あまりの恥ずかしさからか、ひどく挙動不審になり、動作がバッタバタして、既に座っている乗客にガンガンぶつかりながら移動。しかも、こともあろうに、バカでかいキャリーバッグを持ってやがるもんで、その重々しいキャリーバッグを既に座っている乗客の膝などに、ガンガンぶつけながら移動する始末。

迷惑極まりないおばちゃんの様子に、ふと一抹の不安がよぎる。

「向こうの窓側の席に間違って座っていたということは、僕の隣の窓際に移動してくるんとちゃうんけ?」

そう思いそわそわしていると、おばちゃん、恥ずかしげな顔と、所構わずぶつけまくるキャリーバッグを武器に、こちらへ近づいてくる。勘弁してくれ。膝をパタンと折り曲げても、そのキャリーバッグ、当たるぞ、膝に。

心の中でそない唱えていること虚しく、思いっきり膝にバッグをガツンとやられ、しかも恥ずかしさのあまりに、謝るという必要最低限の礼儀さえも忘れたおばちゃんが、僕の隣、窓際の席に着座。

「はぁ、朝から胸クソ悪い…」

と思いながらも、静かにしていると、そのおばちゃん、鼻がひん曲がるほどに強烈な香水をふってやがり、犬並みに鼻が利くと評される自分にとっては、地獄の沙汰。

ウチの半径数メートル以内の人間は、ウチの臭いから解放しまへんで!と言わんばかりに纏わりついてくる香水の臭い。数分間耐えてもみたが、我慢できずに喫煙ブースへと移動し、タバコをふかす。

タバコもタバコでそのニオイは臭いもんであるが、あの香水に比べれば、ずいぶんマシといったもんである。
これは席に戻って東京までジッとしているのも辛いぞと悶々しながらも、喫煙ブースにずっと居座るのも何なので、席に戻ることに。

自分の席に座ろうとしたその瞬間、そのおばちゃんが、キャリーバッグを床に寝かせ、その上に、サンダルを脱ぎ露にした素足を乗せて、えらく寛いでいるのが目に飛び込んできた。

その素足が、とてもとても汚らしく、おばちゃん、そりゃ人様に見せる用のもんじゃないぜ、と叫びたくなるくらいの様式美に、閉口。
相変わらず消えない香水の鼻をつんざく臭いと、iPhoneを操作しながら、ブツブツとひとり言を続けるおばちゃんの悪癖との三重苦に耐え、自分の中での新幹線乗車経験史上、最も長い時間を喫煙ブース内で過ごしながら、東京に到着。

苦労しながら休日に東京のお客様のところへやってくるも、打ち合わせ目的の階へと移動するエレベーター内で驚愕の事実が。

本日の打ち合わせの目的が、僕が全くもって不要のもんである、来た意味がない、何の関係もない内容で打ち合わせが行われるとのカミングアウトを受け、東京着、お客様の会社着、エレベーター内で既に自分は、本日東京に来なくてよかった、来るべきではなかった、来ても不要の人間であったことが判明され、これまでに感じたことのない虚無感とともに、まるで外国語の如く、意味も内容も分からない打ち合わせに同席し、約一時間後、ビルから放っぽり出された。

「こりゃ酒でも呑んで帰らにゃワリが合わん」

と鼻息荒げ、呑み屋を探すも、まだ時間は午後の二時半、どこにもそんなに陽気な呑み屋は見当たらず、しぶしぶ東京駅の中の、呑める店に入店。

しかし、東京の価格、高い。

普段、大阪では、小銭だけで飲み食いできるような店にしか入らない性分ゆえに、その価格帯に怖気づくも、今日はとりあえず、腹の内の怒りと虚無感だけでも、ここ東京に置き去りにせねばとの意志から、のれんをくぐり、大将に「瓶ビール!」とオーダーし、昼ごはんとともに堪能する。

ややほろ酔いのまま、帰りの新幹線の指定席を確保し、無事に新幹線に乗車。
東京の滞在時間、約三時間。
しかし、こんな日は、そそくさと大阪に帰って、今日の続きを大阪で楽しもうやないかと、もちろん通路側の席に座りウトウトしていると、通路を挟んで隣の座席、一列の席をクルリと進行方向逆に回転し、ファミリー仕様にした四人連れの家族が、えらいやかましいではないか。

夏休みの休日ということもあり、そんな日に、クソ暑いスーツなんか着込んで、新幹線を利用しているこっちのほうが、きっと邪魔者だろうから、その家族のやかましいのは我慢しなきゃね!と軽く気持ちを落ち着かせ、引き続きウトウトしていると、家族の子どものひとり、『だいちゃん』と称される少年が、いきなり、

「キモチワルイ…」

と乗り物酔いを訴え出した。

そこまではいい。そこまではいいんだ。僕も乗り物に強くないタイプだから、乗車後に気分が悪くなることは、『だいちゃん』のせいじゃないからね、可愛そうにと、慈愛に満ちた気持ちが心の中。

そうこうしていると『だいちゃん』、ビックリするくらいにデカイ音で、ゲップをゲプッとやりまして、こりゃいよいよ、吐いてしまうんやないかと更に心配をしてしまう。

が、その、いわゆる『だいちゃん』という少年、実はとてつもなくフテこい野郎でして、母親が、

「だいちゃん?大丈夫?」

などと問いかけると、妙にふざけた声色で、

「ダイジョウブ」

と。さらに、

「だいちゃん?どんな感じ?」

と問いかけられると、さらにふざけた声色で、

「ドンナカンジ」

と、何の流行か知らんが、母親のセリフをオウムのように繰り返すというオフザケをやってのけるのである。

「しんどくない?」
「シンドクナイ」
「吐きそう?」
「ハキソウ」

などと延々やっているうちに、『だいちゃん』が巨大な音のゲップとともに、ついに嘔吐し出した。

そこまで吐きそうなんやったら、さっきまでのフテこい態度、なんやってん…。フザけてる間にトイレ行けたんちゃうんかい?と、少しばかりイライラしながら、横目で家族を見ていると、母親が、

「だいちゃん、ここで全部吐いてしまいなさい」

とフテこい『だいちゃん』に指示を出している。
何度も何度も大きな音でゲップを続け、ビニール袋に嘔吐を続けるだいちゃん。

「だいちゃん、全部出た?」
「ゼンブデタ」
「気分よくなった?」
「キブンヨクナッタ」

まだやるんかい!このクソ坊主!
そんな風にフテこくフザけながらも嘔吐は続く。

自分も男だから分かるが、この、小学生から中学生にかけての男子という奴は、なんともフテこくて、可愛げのカケラもなく、見ていてもその所作、所為、腹の立つことばかりで、思い返すと、自分の当時の振る舞いも、殴ってやろうかというくらいに憎たらしい生き方をしていたと回顧できるが、この『だいちゃん』も例に漏れず、たまらん、フテこい。

しかもこの『だいちゃん』、乗り物に弱いにも関わらず、進行方向と逆側に座らされてるもんだから、この両親も極悪な人間である。こうなってくると、誰が正義で誰が悪かさえも分からない。

車内には、『だいちゃん』の嘔吐物が放つ、酸味のきいた悪臭が充満しているためか、やたらと売り子さんが呼び止められ、その他の乗客の皆さん、お茶やら水を買い求める人が目立つ。

おい、母親よ、『だいちゃん』をそっとしといてやりたい気持ちも分からんでもないが、せめてトイレで吐かせてあげてくれよ。新幹線は、君たち家族の私物じゃないんやから。

そんな憤りを感じながら、帰りの新幹線、大阪到着までの間、大半の時間を喫煙ブース内で過ごしたのであった。

デタラメだもの。

20130811