セルフのガソリンスタンドには、怖くて、とても入れない。

何が怖いのかっていうレベルじゃなくて、怖いことだらけ過ぎて、あんなところに何の抵抗もなく入っていける猛者たちの気がしれない。

店員さんがいるガソリンスタンドよりもガソリンの値段が少しばかり安く、また、人に言わせれば、自分のペースでガソリンを入れられて、必要な量だけ気軽に入れられてと、メリットばっかりを主張されるが、何よりも自分の前に立ちはだかる障壁、それは、初めてのセルフ給油を、トラブルなくやり過ごせるとは、到底思えないということ。

こういう想像が膨らんでしまう。

セルフのガソリンスタンドに着く。
まず、何をしていいのか分からない。何を手に取って、いつどのタイミングでどこにお金を入れれば、目的のガソリンがジョロジョロと出てくるのか分からない。

キョロキョロしながら、ウロウロしながら、あたりを見回していると、自分を先頭に長蛇の列ができてしまう。
ようやく給油の仕方が判明するも、その光景を目にし、余計に焦ってしまい、手元がガクガクと震え、ガソリンのタンクから給油ノズルをずらしてしまい、あたり一面に、ガソリンをこぼし、撒き散らしてしまう。

その状況にさらに慌てふためき、後ろで待つ長蛇の列の方々のストレスは、さらに高まる。
長蛇の列の後方からは、先頭の人間が、なぜにこんなにも時間を食っているのか、最高潮までに昇りつめたストレスと共に、強面のおっちゃんが高級車から飛び出してくる。

後ろを振り返ると、高級車から飛び出してきた人が、鬼の形相で、こちらに近づいてくるのが見える。
僕は胸倉を掴まれ。

「おい、にいちゃん!何しとんねん?早ようせんかいな!こっちは時間ないんじゃ、ボケ!殺すぞ!」
「ひぃ、ひぃぃぃぃぃ、ごめんなさい!」
「謝ってる暇あったら、さっさとせんかい!どアホ!」
「あ、あの、やり方が今ひとつわからなくてですね…」
「こんなもん、小学生でもわかるぞ、ボケ!わらかんのやったら、セルフ来るなや!クソガキが!」
「ひぃ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」

そうして、必要とするガソリンの大半を、足元にこぼし、車にもぶっかけ、ベトベトになった車に飛び込み、逃げるようにガソリンスタンドを後にしたいのは山々だが、まだ、精算という名のビッグイベントが控えている。

精算って、どこでするん?どこでお金払ったらいいの?分からない人は、払わずに帰ってもいいの?

そうやって再び、あたふたキョロキョロしていると、先ほどの強面の高級車のおっちゃんが、

「まだモタモタしとるんかい!ええ加減、殺すぞ、お前!」
「ひぃ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

そのお方、ご丁寧に、僕の背中を思いっきり蹴りつけ、吹っ飛んで行く僕の身体。
そうやって吹っ飛び、壁に激突するも、痛みとともにその壁の上部を見てみると、精算機の文字が。
助かった。
生きて帰れた。

というような、ホラー映画顔負けの恐ろしいイメージが、自分の脳内にできあがってるもんだから、とてもとても、セルフのガソリンスタンドには入れない。

なんだけれども、だからといって、店員さんがいるガソリンスタンドを快く思っているかというと、これが、そうでもない。

普段利用している、家の近くのガソリンスタンドは、スススーッと車を寄せやすく、入りやすい場所にあるため、頻繁に利用はしているものの、物品購入の勧誘や、追加サービスの勧誘が激しく、気の弱い自分は、毎度毎度、それを断ったり、苦笑いしたり、受け流したり、気苦労が絶えない。

それは、ある年の、年末だった。

いつも通り、ガソリンのメーターが心もとなくなっていたため、セルフではなく、その、店員さんのいるガソリンスタンドにて給油しようと、フラッとそこへ立ち寄り、普段通りに、ガソリンを満タンにしてもらった。

給油サービス、窓拭きサービスなど、一通りの作業が終わり、店員さんが、開いた窓越しに声をかけてきた。

「お客さん、年末年始とかねぇ、車使うこと増えたりしはるでしょ?だからね、今、安全のために、タイヤの空気圧のチェック、無料でさしてもろてるんですわ、どないします?空気圧減ってたらね、高速とかで、いきないタイヤ破けたりするの、最近増えとるんですわ、どないします?」

事故をフックにした勧誘の圧に気圧され、そこまでおっしゃるなら、ましてや無料で点検してもらえるんだし、ということで、

「あ、はい、お願いします」

と快諾し、待ち合いブースへと移動。

ボーッと店員さんの作業を見ていると、何やら大掛かりな作業に突入している。
ん?空気圧とか、もっと気軽にチェックできるやつちゃうん?ちょと、思てたんと違うぞ。

異変に気づきながらも、自分自身に対して、無料で手厚いサービスしてもらえてラッキーなんだぞ俺は、と言い聞かせ、作業を見守る。
すると、店員さんがこちらに近寄ってきた。

「お客さん、タイヤねぇ、ちょっとおかしなことなってる可能性あるんで、一回外して、点検しますね、何かあったら怖いんで」
「は、はぁ」

何かあったら怖いんでっていうか、この状況が既に怖いんですけどと、一抹の不安を抱えながらも、自分の車の安全性は、これで飛躍的に向上するんだと自分自身を納得させ、店員さんの言われるがままに従うことに。

タイヤを外し、奥の、さらに仰々しい作業をするスペースに入っていってしまったため、待ち合いブースからは、もう、店員さんの作業は見えない。
そわそわしながら、しばらくの間、待っていると、タイヤを抱えた店員さんが戻ってきた。

「お客さん、えらいことですわ!こんなタイヤで走ってたらあきまへんで!」

と、すごい形相でまくし立てる店員さん。さらに、

「見てくださいよ、このタイヤ!ほら、五寸釘刺さってますねんで!ブスーッ行ってますわ!こんなん走れまへんで!もう、タイヤ交換してもらうしかありまへんわ!ちょうど、今、年末年始のタイヤ交換サービスやってますねん。もうこのタイヤあきませんし、交換さしてもらいますね!」
「は、はぁ」

うん。一旦、整理しよっか。
僕、ここまで普通に走ってきたよね。五寸釘刺さった状態で走ってなんかなかったよね。それだったら、空気圧チェックするときに気づくよね。
こんなん走れまへんで!って言われても、ここまでちゃんと走ってこれたよ。走れないタイヤじゃ、ここまでも来れないもんね。
よし、確信突いたこと、言っちゃうね。

あんた、タイヤを奥に持ってって、五寸釘刺してきたよね。
走れまへん!っていうか、走れないようにしてきたよね、今、奥で。
タイヤ交換サービスやってますっていうか、五寸釘刺して、使い物にならないタイヤにして、交換させようとしてるよね。善意じゃないよね、それって、俗に言う、悪意だよね。

そんな悪意を浴びせられ、年末の出費がかさむ時期に、予想外の五万円という高級タイヤ代を支払わされ、ガスリンスタンドを後にした。

さて、セルフと店員さんがいるのと、自分には、どちらのガソリンスタンドが合っているのだろうか。

デタラメだもの。

20130727