子どもの頃には、あまり気づかなかったけれども、大人になって気づいたことがある。それは、「要は…」が乱発されているということ。

特に社会ではこの「要は…」が、より一層に濫用され、会話の端々、いや、中心的フレーズとなって耳に入ってくるわけで。

んで、おかしなことに、この「要は…」は、あまり「要は…」の意味になっていないこと多く、「要は…」の役を果たしていないこと多く、そういや自分も、使うまい使うまいと思ってはみるものの、恐らく「要は…」に頼り、会話を進めてしまっていることは、言わずもがな。

社会にはびこる「要は…」にスポットを当ててみると、こんな感じ。

「そのプロジェクトはですねぇ、要は、我が社の実績から数多の信頼を受け、最も得意とする分野でございまして、故に、この分野では、右に出る者のいないほどに、自信を持ってクライアントの皆々様に、安心のサービスをご提供できるわけでございます候」

長い…。

要はですねぇ、「要は…」の後が長すぎるわけです、思うに。
それは、非常にかっこ悪い醜態を晒していると思うわけで。つまり、要はといって話をまとめてやるぜと息巻いて、俺にはこの話をズバリと濃縮させ、濃ゆい濃ゆい、濃縮果汁のような酸っぱさ旨さで、この話をお伝えしますぜ、と言わんばかりの威勢で「要は…」。

が実際には、「要は…」の後に、ダラダラと長く、万が一、その話を拝聴しておられるお方が、相当なスキルの持ち主であった場合、「要は…」の後の話の長さに、こいつは威勢良く飛び出して行ったものの、ノープラン、方向性さえ持っておらずに、会話の迷子。サービスインフォメーションの譲にでも、呼び出しのアナウンスをかけてもらわねば。
「紺色のネクタイに縦ストライプのYシャツをお召しの30代前半の男性の方。会話の結論がお待ちですので、至急、要は…の前に会話をお戻しください」
などと、恥ずかしいアナウンスに誘われ、首の根っこを掴まれ、はい、そこまでよ。

で、この場を借りて、挑んでみようじゃないか、と。
かっこいい男と思われるためには、やっぱり「要は…」の後は短く、端的に、スパッと。

例えばどうだろう。

「要は、バシンッと行きます」

アホやな、これは。要はの後が抽象的なっとるがな。

「要は、100万円で!」

おぉ!これはええじゃないか。具体的に数字に落ちとるじゃないか。でも、何が100万円か分からんぞ、これじゃ。

「要は、機会損失防止システムの導入を100万円で!」

なるほど、より具体的じゃないか。でも、機会損失防止システムというのが長ったらしくて、気にくわんね。

「要は、機損防システムの導入を100万円で!あっ、機損防というのは、機会損失防止という単語を短くするための即席の略語です」

あかん、説明の説明が増えとるがな。これはボツやな。機会損失防止システムを扱っとるからあかんのや。扱うもんを、いっそ変えたらええんやな。

「要は、スープに浮いてるナルトの枚数は3枚です」

おぉ!完璧に近づいている気がするのは、僕だけだろうか。見事にスープに浮いているナルトの数を端的に伝えている。これは行けるんじゃないか。

「要は、スープに入っているチャーシューの枚数は2枚です」

むふふ。ごらんなさい、今や、俺は「要は…」を完璧に使いこなせているではないか。気持ちが高揚してきたので、もうひとつ。

「要は、スープはしょうゆベースでございます」

もう慣れたものだ。「要は…」マスターになっている。が、スープ絡みのものを端的に言う以外に、「要は…」を使えないんじゃないのか。

「要は、機会損失防止システムの導入を100万円で!あっ、ただ、機会損失防止システムは呼び名が長いため、我が社では、機損坊システ…」

だめだ。俺にはやっぱり機会損失防止システムは扱えない。事が大き過ぎて手に負えない。

やはり僕は、「要は…」なんてキザな言葉を使うことなく、のらりくらりと会話を進め、飽きられぬよう、無い知恵と浅いユーモアを使って、しゃべり倒すという方法で突き進んでみようと思う。

要は、身の丈に合った会話を。要は、カッコつけない会話を。要は、を使うなら勝機を感じたタイミングで、さりげなく、スマートに。

ただ、こんなことだったら言えるぜ。

「ごらん、向こう岸に見えるタワーは12時にライトアップが消えるんだ。そうしたら僕は、ポケットから小箱を取り出す。その小箱には、あのタワーのライトアップ以上にキラキラと輝く、リングが入ってるんだ。そうさ。要は、結婚してくれってことさ」

ううん…。イマイチやな。「要は…」には、用は無いみたいだ。

デタラメだもの。

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