それにしても、なんでこんなにも慢性的に金がないのだ。
自分が若かりし頃にイメージしていた三十代半ばの人間たちのイメージと、今の自分の像が乖離し過ぎていて、滑稽にもほどがある。

先日も、部下二人を引き連れて、大阪のグランフロントとかいう、まるで大阪に似つかわしくないシャレた商業施設に足を運び、広告の設え、装飾などを拝見し、自分たちの参考にしようやないかとウロウロ練り歩いて小一時間。

ここを訪れている人間たちは、さて、大阪の人間ではないのかな? 田舎に住まう人たちが、大阪を訪れた際に立ち寄る観光スポットなのかしら? それとも、ビル内のオフィスで勤務する関東圏から出張やら転勤やらで来られた人たちが、キザな風情を漂わせて、施設を満喫してるのかしら?
この方たちがもし大阪の人たちだとしたら、シティ派というか、都会派というか、関東に憧れてますねんワイもウチという媚がプンプンと臭うくらいに、飲食店を横切れば、下品な笑みを浮かべながら、パスタにフォークを突き立てて、クルリクルリやってるもんだから、思わず失笑して目を背けたくもなる。

まあ、そんなこたぁ、どうでもいい。
ともかく、金がないのだ。

部下たちは、グランフロントの風情に、「オシャレですねぇ……」などと、感嘆としてやがるもんだから、「あほんだら、東京の真似事ばっかりやるのは、大阪の気質と、ほんまは違うねん。ほら見てみい、グランフロントから一本、道逸れただけで、薄暗い路地ばっかりなるやろ。下町の香りが漂う飲み屋さんとかポツリポツリしよるやろ。これが最近の大阪のカッコ悪いところやねん。表層の皮一枚だけ、東京の真似事してみるけど、ハリボテやから、皮一枚の向こう側には、しっかりと、大阪臭が漂ってて、その臭いを完璧に消されへんのやったら、アホみたいに東京の真似事なんかせんでもええのに。真似事にもなってないレベル、そやなぁ、ママゴトっちゅうレベルやのになぁ、こんなもん。カッコ悪いで、最近の大阪は」

などと、オシャレ商業施設を背中にしながら、デカイ声で、ワイの持論を部下たちに展開しながら、間もなく歩道の信号が青に変わろうとしていたので、勇みながら渡って行くと、ワイだけが横断歩道を飛び出すかたちになって、誰一人、歩を進めやがらない。
「大阪の青信号っちゅうやつは、青の時と、もうすぐ青に変わりそうな赤の時やがな」
と、おとなしそうな群集を威嚇するような目で眺め回してみたりと、忙しない。

「ほな、サクッと缶ビールだけ飲んで、帰ろか」

と、部下たちに声をかけ、近くのコンビニに立ち寄り、缶ビールを購入。
近ごろ、妙な多忙のためか、お昼ご飯と呼ばれるものを食べる機会が、めっきりなくなってしまったため、朝食も食べない僕は、夜分にビールを仕込む際に、あまりの空きっ腹にアルコールを注ぎ込むもんで、それはそれは臓器には刺激的過ぎて、胃袋の細胞が大量に破壊されてしまうことを防ぐべく、その日は固形物として、じゃがりこ、なるスナックを購入した。

「どこで飲みましょ?」

そりゃそうだ。
自分たちのオフィィィィスの界隈なら、行きつけの缶ビールを飲める路地然とした、薄暗くて、粗暴で、スラム臭が漂う良きスポットを知ってはいるが、ここは梅田、多少、勝手は違う。
同類のスポットがあるだろう場所が頭に浮かんでいたので、部下たちを誘導するも、さすがそこは梅田、近い臭いはするものの、どうにも缶ビールを安心して飲めるような風情の一角がない。

しばらく練り歩いてはみたが、あまりに最適な場所が見当たらないので、「もう、どこでもいいんちゃいます?」との部下の号令をきっかけに、服飾専門学校の事務棟の前で且つ、レンタカー兼駐車場になっている施設の前、歩道としては少し広めで、車道としては少し狭めな道路の端で、缶ビールとじゃがりこをオープン。

上手い具合にそれらを置くことのできるテーブル代わりになるコンクリート塀も見当たらず、缶ビールは片手に、もう片手には煙草を、じゃあ、じゃがりこどこ置くねんということになり、足元の下水の溝のところに、じゃがりこを置いて、少々談笑をしていた。

まぁ、梅田を行き交う人間たちは、物の見事に僕たちのことを、「このウスノロたちは、ボロボロのスーツを着込んで、貧乏たらしく缶ビールなんか飲んでやがるぜ、ここどこだと思ってやがんだ? 梅田だぜ? こういった類の連中は、梅田から排除してもらいたいもんだぜ、景観が崩れるわ、臭うわ、気分を害するわで。一刻も早く、こういった害虫は、街から追放して欲しいね。特になんだ? 他の二人は多少若い連中だから仕方がないが、リーダー格の奴は、それなりにオッサンじゃないか、まったくいい年こいて情けない。日本の未来も暗いよ、全く……」

と言わんばかり、否、心中でおっしゃっているのが伝わってくるくらいに、冷たい目、冷ややかな目、冷笑する目、白い目で、僕たちのことを侮蔑して通り過ぎて行かれる、ここ梅田。
僕は元来、そういう仕打ちがめっぽう好きで、「たいしたことのない人間たちが、たいしたことのない人間を見て笑ってらぁ、滑稽、滑稽、ガハハハハ」と愉快な気持ちになる。

そんな風にして缶ビールを垂らしこんでいると、僕らのすぐそばに、民間の清掃員のおっちゃんが、周りを掃除すべく僕たちのほうに近寄ってきた。
僕らは平生、地球が缶ビールの飲み屋と自負しているくらいなので、基本的にゴミは出さん、出したゴミは持ち帰るということを心がけているので、僕らが排出したゴミはひとつもない。
そう思いながら、猥談などを始めようとした瞬間、なんと、清掃員のおっちゃん、火バサミをグイと地面に突き出し、排水溝の上に置いておいた、ワイの大切な大切なじゃがりこを、挟んで捨てようと試みたのだ。

思わずワイは、

「すんません、それ、ゴミちゃいますねん! まだ食べてますねん!」

と、火バサミの手を制止させ、無事に貴重なじゃがりこを守ったわけである。じゃがりこからしたら、ワイは救世主に当たるわけで、じゃがりこ史に未来永劫、語り継がれる名場面になったんじゃなかろうかと有頂天になっていると、急に部下が笑い出した。

「普通、飲食店なんかで、それまだ食べてますねん! って言うときって、店員さんが空いたと勘違いした、食べ物とか飲み物を指差して言いますよね? でも、今、それ、ゴミちゃいますねん! って言いはりましたよね? なんか面白ろ過ぎて……。あと、清掃員にゴミやと勘違いされるもん僕ら食べてるんやって思うと、情けなくなってきて……。」

僕の部下はとても優秀な奴らなので、情けないと思いながらも腹を抱えて笑ってくれている。心からこの情けなさを楽しんでくれている。僕は彼らに、そんな楽しい空間をプレゼントしている。こんな楽しい空間は、クソ高い料金体系を持った飲み屋には用意されていない。

大阪は、やれ府だの、やれ市だの、このままやるやら合体するやら、政でワイワイやっているようだけれど、税金がどうの、公共施設がどうの、サービスがどうの、の前に、中小企業やら零細企業やらが儲かる仕組みを作ってもらって、そこの経営者連中の背中にピストルでも突きつけながら、従業員の給与の向上やら賞与の授与やらを約束させるような政治をやってもらいたい。

あんたらがむしり取る税金の大小を持ち出して、あんたらが無計画に量産する事業の是非を持ち出して、ワシの党のほうが、ワシの党のほうがなど、身勝手なことを言われても、こちとら白々しい気持ちになるばかりで、一人ひとりの生活を良くするためには、取るほうを抑える方法じゃなくて、より多くを与える方法を論じてもらいたいと願うばかり。
そのためなら、府や市に存在する企業の社長を脅してでも、従業員、果ては、府民であり市民の生活を改善するべく、汗と恥をかいて欲しいものである。

そうすれば、オッサンにもなって、梅田の路上で缶ビールを旨そうに飲むコンチクショウの数も減ってくるのではないでしょうか。

もう一度、言おう。
僕にとっては、地球が缶ビールの飲み屋だから。

誰か、店に入れるくらいの金をくれ。

デタラメだもの。

201150503